第6章 薬研藤四郎という刀
「主や、暇だ」
そんな心あらずと言った体の男に、三日月宗近は団扇で扇ぐのを止め男の顔をぐいと自分の方へ向かせた。
「ぅおっ?!」
不意をつかれた男の変な声とともに、首筋がぐきりと鳴る。
このじじいめ。
男は心の中で罵った。
「主、先程から俺はほっとかれっぱなしで寂しい。せっかく俺がいるのだから、もっと構わんか。ほれ、みんなのあいどる三日月宗近だぞ。」
「じいさんほんとわがままだな?!つかそんなんどこで覚えたんだ!」
男は思わず突っ込んだ。
今朝のしおらしい三日月宗近はどこへ行ったのやら。
三日月宗近は天下五剣(しかも最も美しいとされる)故か、ときどきとんでもないワガママを発動する。
鶴丸国永曰く、主が甘やかすからだとか何とか。
「暇ならこの書類読んどいてくれ」
男はそう言って、三日月宗近に数枚の紙を渡した。
「いいのか?政府からの重要書類は俺たちに見せてはいかんのだろう?」
「そんなの今更だろ。どうせそこに書いてあることをお前たちに伝えるんだし」
「はっはっは、お主のそういうところは好きだぞ」
「はいはい」
「取り合ってはくれんのか、冷たいなぁ」
くすくすと笑って言う三日月宗近を無視して、男は心を入れ替えパソコンに向き合う。
考えごともいいが、とりあえずはこの書類を作成しなければからない。
提出期限は明日までだったはずだ。