第6章 薬研藤四郎という刀
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昼間、男は中庭が見渡せる部屋で雑務をこなしていた。
横では今日の近侍である三日月宗近が、団扇で男を扇いでいる。
先程からパソコンで文字を打っては消し打っては消しをしているためか、進行速度は驚くほど遅い。
今日の近侍が山姥切国広や歌仙兼定であったなら、キレてしまっているだろう。
そこは流石じじいというか、なかなかに辛抱強い。
手が進まない理由は分かっている。
朝、三日月宗近が男に向かって吐いた言葉が原因だ。
嫌な夢、薬研藤四郎。
それに合わさって、最近の過剰とまではいかないが急に増えた出陣。
ただ偶然が重なっただけかもしれない。
やげん、とは、薬研藤四郎ではなく別のものかもしれない。
それでも男は、胸に蟠りを感じていた。