第6章 薬研藤四郎という刀
男はできるだけ三日月宗近が安心できるようにと優しく笑って、大丈夫だという旨を伝える。
「嫌な夢だったのかもしれないけど、俺はどんな夢を見たのか覚えてないんだ。だから三日月、そんな顔ばかりしないでくれ。」
「しかし…」
「しかしも何もねーよ。俺は大丈夫だし、もう三十路近いおっさんだぜ?心配されるような年でもないだろ」
「俺にとってはまだ幼子も同然だ」
「そりゃああんたたちが生きてきた年数に比べれば子供かもしれないが、人間で言えば立派な大人だ。」
「そんなことを言われても知らん。俺は心配なのだ、主。あんな風に苦しむお主を、初めて見た。」
なかなか引き下がらない三日月宗近に、そういえばこの天下五剣様はわがままだったということを思い出す。
だがただわがままを言っているわけではないことは分かる。
本当に心配なのだろう。
だからと言って覚えてないものはどうしようもないし、一体どうすればいいというのか。