第6章 薬研藤四郎という刀
男は汗で濡れて肌にひっつく着流しを脱ぎ、新しい着物を出して身につける。
審神者になってからの男の格好といえば、和服ばかりだ。
畑仕事や馬当番を手伝う時は学生の頃学校で使っていた指定のジャージを着るが、慣れてしまえば和服の方が楽であった。
着替え終える頃になると、三日月宗近が水を片手に戻ってきた。
男は受け取ると一気に飲み干す。
冷たい水が喉から胃に流れ落ちるのを感じ、同時に脳が覚醒しだす。
「三日月、水ありがとう」
男は空になったコップを机の上に置き、伸びをした。
さて顔でも洗いに行くか、と部屋を出ようとしたところで三日月宗近に呼び止められる。
「主、何か嫌な夢でも見たのか?」
それは先ほど魘されていた男を気遣う内容で、よっぽど心配なのかその手は男の腕を掴んで離さない。
男自身、嫌な夢を見たという感覚はあれど、内容は覚えていないのでそこまで心配することではないと思うのだが、三日月宗近の顔を見るとそうも言ってられなくなる。
男が起きてからというものの、三日月宗近は心配そうな顔しかしていない。