第6章 薬研藤四郎という刀
ひどい魘され方だった。
今日の近侍の三日月宗近は、その役割の一つでもある主を起こすという責務を果たすため、朝餉がそろそろ用意できるだろう頃に男の部屋へと訪れた。
訪れた先にいたのは、ひどく魘されている己の主。
苦しいのかうめき声を上げ、うわ言のように、あつい、やげん、その二つの単語を繰り返していた。
三日月宗近は呆気にとられて、動くことができなかった。
声をかけることすら出来ずにいると、男は喉を掻き毟るように引っかき始めた。
そこで三日月宗近はやっと我に返り、その手をそっと退け身体を揺すり男を起こす。
男の喉には幾つかの引っかき傷が残り、三日月宗近は呆然としていた己を殴りたくなった。
起こすまでの経緯を思い出していた三日月宗近に、男が呼びかける。
「みかづき、みず…」
それにはっとして、三日月宗近は笑みを模る。
「あいわかった。すぐ持ってこよう。ここで待っておれ。」
三日月宗近が部屋を出て行くのを見てから、男はため息を吐き出した。
夢の内容は覚えていない。
しかし、嫌な夢だったことだけははっきりと覚えている。