第6章 薬研藤四郎という刀
20
ゆさゆさ、男は身体を揺すられるのを感じて、目を開けた。
目を開ければ、そこに映っているのは三日月宗近の顔であった。
その美しい顔は、眉が下げられ瞳が揺れている。
心配そうに男の顔を覗き込む三日月宗近に、まだいまいち状況が掴めていないらしい男は数度瞬きをした。
「ゆめ…」
どこがぼんやりとした男の瞳は、まだ夢に囚われたままらしい。
三日月宗近は自分を映さない男の瞳に不安を煽られ、その頬をぺちぺちと軽く叩いて覚醒を促してやる。
「あるじ、あるじや」
そこから男を呼びかけてやれば、男はようやっとその瞳に三日月宗近を映した。
「みかづき…?」
寝起き特有の掠れた声で呼ばれ、三日月宗近は安堵のため息を吐く。
「三日月だ。大丈夫か?ひどく魘されておったぞ。」
そう問う三日月宗近の声には心配が多分に含まれており、男は緩く頷いた。
男が上体を起こすのを手伝うために背中に手を入れれば、寝間着にしている着流しがぐっしょり濡れており、三日月宗近は眉をひそめる。