第6章 薬研藤四郎という刀
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その日の夜、男は嫌な夢を見た。
辺りはただひたすら黒が埋め尽くす世界で、上も下も、右も左も分からないようなところだ。
そこに男は立っていて、数メートル距離を空けた先に薬研藤四郎が立っていた。
薬研藤四郎は男を見つめてから、まるで何かに耐えるような痛々しい笑みを浮かべて口を開く。
ぱくぱくと動かされる口は確かに男の目に映っているのに、耳は何も音を拾わない。
痛いほどの静寂の中で、男は薬研藤四郎の言葉を何とかして聞き取ろうと精神を研ぎ澄ます。
はくはく。
しかし聞こえるのは息を吐き出す音だけ。
男は眉をひそめた。