第6章 薬研藤四郎という刀
「いえ、それは構わないのです。それより主君、先刻から何を悩みになっておられるのですか?」
平野藤四郎の声に、男は再び手元の書類に目を落とした。
そこに書かれているのは、今週の出陣と遠征の編成及び結果だ。
「いや、大したことじゃないんだけど…」
男はそう前置きしてから、持っていた書類を平野藤四郎に見せた。
「最近、薬研の出陣が多いと思って」
平野藤四郎は書類を見ながら、男の言葉に確かにと頷く。
男の本丸では、練度が成熟した刀剣男士は出陣することがあまりない。
しかしそれはあくまで他の刀剣男士に比べてであって、全くないわけではなく、最低でも三日に一度は出陣している。
出陣しない日には家事をして貰うなど何かしらしてもらっているので、それで文句を言うものはいない。
男の本丸で練度が成熟しているものは現在の時点で四口おり、その四口は男のもとに初めにやってきた四口だ。
順番に山姥切国広、薬研藤四郎、にっかり青江、大倶利伽羅である。