第6章 薬研藤四郎という刀
いや、でも、ならばいつまでこのままなのだろうと想像して、平野藤四郎はまた汗を流した。
もう半刻以上この状況が続いているのだ、下手すれば夕餉の声がかかるまでこのままかもしれない。
あり得る。十分にあり得る。
思考がそこに至ってからの平野藤四郎は早かった。
正座した太ももの上に置いている拳をぎゅっと握りしめ、勇気を出して口を開いた。
「あの、主君!」
やっとの思いで男を呼びかけると、男は久方ぶりに平野藤四郎の方へ意識をやった。
ぱちりと目が合い、平野藤四郎はなぜか焦る。
「ああ、平野。ごめんな、ほったらかしにして」
男は平野藤四郎を見るや否や謝罪を口にした。
時計を見てどの位悩んでいたのかを知り、同時に平野藤四郎をそれほどの間放置していたことを思い出す。
何か仕事でも与えていれば良かったのだろうが、することもない平野藤四郎を放置することはあまりにも酷だった。