第9章 贈り物
ナルサスは困っていた。
一国の天才軍師。
されど、妻への贈り物ともなると悩まずにはいられない。
「……」
「…ナルサス」
一言も発する事なく、ひたすら考え込むナルサスにダリューンが話し掛けた。
「なんだ?」
「どうして、俺なのだ」
「どうして、とは?」
「もっと適任者がいるだろ。ファランギース殿やアルフリード。何故、俺・な・の・だ!?」
ダリューンの言い分も最もである。しかし、そこには理由があった。
「あの二人には、を任せているのだ。なので、結果としてお主になった」
「…なら、俺が殿と出掛ければよいではないか」
「おぉ、それもそうだったな」
「…(ピキッ)」
わざとなのだと、ダリューンはわかった。そして、わざわざ非番にこうして連れ出される事に腹が立った。
その時、「まぁ、そう怒るでない」とナルサスが続けた。
「折角なのだ、も女子同士で出掛けた方が良いのでは、と思ったのだ」
「(…妻にはあり得ない程、甘い奴だ)」
「それに、お主と一緒では流石のでも暑苦しいだろ」
「(…帰るか)」
「帰ろう、などとは思わん事だな」
考えている事が見透かされている。ダリューンは、ぴたり、と動きを止めた。
「これは、アルスラーン殿下直々のご命令だ。ダリューン、お主にな?」
ニヤリと笑った顔は、ダリューンにトドメを射した。
「で、殿下の?」
「そうだ。「にはいつも世話のなっている。是非、良いものを贈ってやってくれ」とのお達しだ」
「くっ!ナルサス!何と卑怯な!」
「卑怯ではない。殿下から申されたのだ。さて、どうする?」
「…殿下の、殿下の……ご命令ならば、」
ダリューンの中で葛藤が終わったのか、ため息をついてナルサスの後に続いた。