第8章 苦手
それは、突然に…本当に突然だった。
ーコンコン
扉を叩く音がし、エラムが確認にしに行く。何やら話し声が聞こえ、エラムがナルサスの元に報告をしにきた。
「ナルサス様、お客様です」
「?誰だ」
「お客様はお客様なのですが…その…」
エラムが言葉を濁した、その時だった。
「殿ぉ!居られますかぁ?」
その声に、ナルサスは口元が明らかにひきつった。
「まさか、客とは…」
「そうなのです。ナルサス様」
と、はっきりと伝えなくともナルサスはわかっているようだ。
ーーー
「殿、私です。ラジェンドラです」
「は、本日はファランギース殿と出掛けております」
努めて、笑顔で…極力笑顔で、ラジェンドラにそう返した。
「おや、軍師殿。何故、こちらにおられるのです?」
「ご存知ありませんでしたか?私とは、祝言をあげたのですよ?」
まぁ、言わなくてもわかるだろう。この時のナルサスは所謂ドヤ顔をラジェンドラにかましたのである。
「な…何ぃぃぃぃ~!?」
「エラム、今日はお帰りになるそうだ」
「こらこら、待て待てい!折角来たのだ。殿に会っていくぞ」
「残念ながら、本日はファランギース殿のところに泊まって…」
『ナルサス様、ただ今帰りました』
「泊まって、何ですか?」
何ともタイミングの悪い時に、が帰ってきた。
「殿!!」
『あら、ラジェンドラ様?』
ナルサスは、ため息をついた。深~いため息だ。
「。今日は、ファランギース殿のところに泊まりではなかったのか?」
『ナルサス様。実は、ファランギースが急に王宮に呼ばれてしまい、泊まりのお話は今度に持ち越しになりました。いかがなさいました?』
「…そうか」
ナルサスがこの時ほど、肩を落としたのはエラムも見たのは久しぶりだった。がいること自体は構わない。問題はラジェンドラである。
ここまでの会話を聞いていれば、わかるかと思うが…
ナルサスは、ラジェンドラが苦手である。
その性格もだが、何より気に入らないのはに言い寄る虫であるから…