第4章 みっつめ『楽しそうに歌う所』(前編)
「あ~。多分それワシも見てたよ。最初は2人共別々に鼻歌を歌ってたんだけどね、なんか同じ方向に行く用事があったみたいで、並んだ辺りからどんどん声が大きくなっててさ~。遠退いていってる筈なのにずっと2人の楽しそうな歌声が聞こえてたんだよね~」
アハハと笑って話してやると同調して唐瓜と茄子も笑う。
その2人の背後から撮影を終えた鬼灯が席に戻るとネムの話をしていたので、ニュッと顔を出しバリトンボイスで会話に参入した。
2人は驚いて場所を広く開けた。
「わ!鬼灯様」
「びっくりした~」
「驚かせてしまいましたね、すみません。うちの嫁はシロさん並に歌いますよ」
少し離れた前の方でシロを膝に置いて肉を与えながら蓬と楽しそうに雑談を交わす嫁をチラと見遣る。
「いえ~い、チャイニーズエンジェル本当に健気でかわいいね」
「そうなんだよ!そういえば今週の朱色がさ」
熱いオタク談義を始めたようなのでそのまま放置した。
鬼灯は自分の枡を再び手にして、手酌で酒を注いで飲みながら話に参加する。
「別に特別上手い訳じゃないんですけどね」
「あ、そこは結構厳しいんですね」
「正直なだけですよ」
今夜は大きな騒ぎも無く、全員がそれぞれある程度楽しく酔いを回して過ごした。
時計の針が頂上を越えた頃、酔いつぶれる者が現れ始めたのでお開きとなる。
大王は他の数人の鬼と、唐瓜は茄子と、お香は芥子などの女子同士、鬼灯はネムと同じ道を連れ立って帰ることにした。
「それじゃあお疲れ様でーす」
「お疲れ様。また明日ね」
「失礼します。」
「おやーすみ~」
「あはは、気をつけてね」
私は鬼灯の腕に絡みつき、フラフラと足取りも怪しく皆に手を振って解散を惜しんだ。