第3章 ふたつめ『金魚草に興味を持つ所』
「ねえ鬼灯」
「なんですか」
ここは閻魔庁、閻魔殿の中庭を利用して金魚草を大量に育てている花壇である。
大型酒から小型種まで、ざわつくトルコ石からノーマル種まで。
多種多様の金魚草を大事に育てていた。
ぎゃあぎゃあとざわつく声をあげる植物なんて珍しくないのかもしれないが、完全にコイツらは意識を持って思考しているのが珍しい。
私は後ろの短い階段へ座り、振り返らずに返事し、バケツ越しに軟らかい水流で水をやる鬼灯の背中を眺めていた。
手元には鬼灯のプレゼントの"おうちでもいっしょ!金魚草ちゃん"という商品名で発売予定の手乗りサイズの鉢植えに植わった金魚草が小さく甲高い声を上げていた。
可愛いと言えば可愛いのだけれど、フォルムと言うか外見や声には可愛さがよくわからなかった。
それでも旦那が好きな金魚草というだけでも、興味を持つに十分な理由がある。
「毎日熱心に水を上げてるよね」
「案外とデリケートで、あげ忘れると干からびていくんですよ」
雑草なんかよりもずっと生命力のありそうな見た目なのにと感心する。
手元に揺れる金魚草ちゃんの瘤をつつくと困ったように「オギャッ! オギャッ!?」と声を上げる。
「金魚草ってさ、金魚成分と植物成分、どっちがメインなんだろう」
「…まあ、見た目は金魚ですが、飼育方法は植物なので植物成分じゃないですかね」
「水中では育たないのかな?」
ごくごく単純に、魚が強ければ何故陸上で育つのか。
植物が強いとしても水草など水を多分に含んだ状態で育つものもあることから疑問を抱いた。
水を一通りやり終えた鬼灯が振り返る。
「ふむ、やってみますか?」
私達は庭に中程度の金魚草がすっかり沈む程度の桶を用意し、そこに水を満たした。
私とおよそ同じくらいの大きさで、幅も程々にある。
そこへ1つの金魚草を鉢植えごとゆっくりと沈めると、ビチビチと身体を捩じらせている。
鬼灯は愛と情熱を持って強制的に水へと押し込んでいった。
私はそれを横で眺めつつ、様子を記録している。