第11章 月のゆりかご/上杉謙信(謙信side)
「一体なにを考えてるんですか?!」
「どうします?信玄様……」
「困ったもんだ」
五月蝿い……
突然、俺の部屋に来て騒ぎだすとは
美味い酒も不味くなるだろう
「謙信様っ! 分かってるんですか?!」
怒鳴り始める幸村を横目で見るが
何をそんなに怒るのかわからん。
「酒が不味くなる__騒ぐな」
「騒ぎたくもなるでしょう!」
「まあ、謙信の気持ちもわからなくもない。
俺とてあの天女に今一度、会いたいと思っていたからな」
「信玄様も余計な事を言わないで下さい。
愛香さんを拉致ったのが信長に知られたら戦なりかねないんですよ」
「戦になるのであれば本望だ__
何も騒ぐ事もないであろう」
「嬉しそうに笑うのはやめて下さい」
佐助もいちいち五月蝿い。
退屈なんだから仕方あるまい
「まあ、今は戦になるのはマズいだろ。
俺から信長に書簡にて事情を説明しよう__それでいいな? 謙信」
「好きにするがよい」
退屈な俺を愉しませてくれるのであれば
別に関係はない。
「しかし、謙信が女に興味を持つとは意外だな」
女に興味を持つ?
この俺が?
「女好きのお前と一緒にするな」
アレに会いたいと思ったのは、ただの暇つぶしだ。
この俺が、女なんかに心を奪われるわけないだろう。
女ほど弱くて利己的な生き物はいない。
俺は2度同じ過ちを犯すつもりは__ない。