第49章 ピックアップ御礼作品【月夜に抱かれて】/光秀
「今夜は下弦の月だ──月を愛でながらの酒もまた格別だぞ」
「言われてみれば……」
開け放たれた襖の先には見事な下弦の月
人はみな美しく輝く満月を好むが俺はどうも好きになれん。
「綺麗な半月ですよね……まるで光秀さんみたいですよね」
「俺みたい……?」
「はい───下弦の月って真夜中に浮かび、陽が昇るとともに沈んでいくんですよね?」
「そうらしいな」
「光秀さんの仕事も……」
「愛香」
「ぁ……すみません。余計な事を……」
俺に悪いと思ったのか、分かり易いくらいに表情が曇っていく愛香。
俺はお前のそんな顔が見たくて、この腕に閉じ込めているわけじゃないぞ。
「酌を頼む」
盃を愛香の目の前に差し出すと柔らかに微笑み、徳利を手に取る。
なみなみと注がれた酒を一気に飲み干し、またも盃を差し出す。
「呑み過ぎはよくないですよ」
と言いながらも、またもなみなみと注ぐ愛香。
「これはお前の分だ」
「……私の……?」
「俺1人で吞んでいてもつまらん。付き合え」
「こんなに吞んだら酔っ払っちゃいますよ」
「酔うお前が見たい──と言ったら?」
「(またそうやってからかうんだから)
恥ずかしいから……イヤです」
「此処には俺とお前しかいないんだぞ。何を恥ずかしがる?」
「顔が……赤くなるから
(酔って顔が真っ赤になったら絶対に不細工になるもの。好きな人の前で不細工な顔なんて晒したくない)」