第36章 気の向くままに/上杉謙信(謙信side)
「愛香をもらいに来た。連れて帰るぞ」
俺がそう告げると信長は表情を殆ど変えずに微かに口角だけを上げた。
俺としては愛香をさらっていっても問題はないのだが、それはそれでつまらん。
どうせなら信長の吃驚する顔でも見てやろうかと思ったが……
無表情すぎてつまらん
興醒めしたな
さっさと愛香を連れて帰るとするか
立ち上がろうとすると、刀先が俺の喉元に突き付けられている。
「ふざけた事を言ってるんじゃねぇよ」
「……俺とやり合うのか? 独眼竜」
相手が信長ではないが__
まあ、独眼竜なら相手にとって不足無し
「この俺を退屈させるなよ?」
「はっ! 誰に向かって言ってやがる」
獣のような眼光が俺を見据えてくる。
ゾクゾクと身体の奥から痺れてくる心地良さに酔いしれそうだ
このまま独眼竜を斬り伏せ、奥州まで手に入れるのも悪くはないな
嬉しすぎて、身震いがする。
この緊迫感が何とも言えんな……
独眼竜を見据えながら刀を握りしめる。
「愛香は渡さねぇからな」
「ほざけ__愛香は俺の女だ」
独眼竜は愛香に惚れているのか?
惚れた女を奪い合うために刀を交えるなど、俺も変わったものだ。