第34章 一夜の幻/顕如
信長の命を狙っていた顕如が捕まった。
愛香の目の前で__
周りが騒然としている中で
空を仰ぎ見る顕如の周りだけ静かな空気が流れているように思えた。
微かに笑みをたたえているような顕如の表情は、とても穏やかに見えて__
まるで、長い苦しみから解き放たれたのよう
そんな顕如から視線を外す事が出来なかった
彼は……顕如さんは今、何を考えているのだろう?
「信長様……お願い事があります」
「ん? 申してみよ」
「囚われの身となった顕如さんのお世話を私にさせて下さい」
「何故に?」
理由を尋ねられてしまうと、どう答えて良いのか自分でも分からない。
ただ、ほっとけない
それに顕如さんは、私の命の恩人でもある。
以前、山賊に襲われた時に私を助けてくれた事があった。
その時の顕如さんは、とても優しい顔をしていたのを今でも覚えている。
信長にどう説明すれば納得してもらえるのかと言葉を慎重に選んでみるけど、どれもしっくりとこない。
だから、愛香は
「私がそうしたいと思ったからです」
真っ直ぐと信長を見据える。
それが愛香の偽りのない気持ちだから__
「好きにするが良い」
「ありがとうございます」