第31章 君は俺の薬/武田信玄(信玄side)
安土城を見上げながら、愛香の事を想うと胸が痛くなる。
こんなに近くにいるのに逢えない。
本当は愛香と一緒に暮らしたくて、敵情視察と称して安土に来たのだが……
「困ったもんだ」
此処まで来て、男としての妙な自尊心が愛香に逢うことを邪魔する。
一国一城の主であったが、色々な事があって今の俺には還る場所がない。
春日山城で居候の身分だ。
そんな俺と一緒になっては愛香は、幸せになれるのか?
答えは否
なれるわけがない。
好いた女を不幸にするなんて事は出来ない。
一時の感情で動けるほど、俺はガキではない
無理やり自分自身に言い聞かせるのだが、諦めきれずに女々しくも安土城を見上げていた。
「この俺がこんなにも切ない想いをするとは……」
思わず苦笑いしてしまう。
「会わないんですか?」
「やめておくよ」
好きだからこそ、彼女を不幸にはしたくない。
「彼女は安土で幸せに暮らしているのであろう?」
「……はい」
「ならば良い」
彼女が幸せならば問題はない
「佐助……」
「はい?」
「明日の朝、出立するぞ」
「……わかりました」