第30章 君は俺の薬/武田信玄(夢主side)
「ちょっと渋すぎちゃったかな?」
仕立て終わった着物を広げて見つめてみる。
でも、大人っぽいあの方ならきっと似合うと思うんだけど……
あの方を想いながら一針ずつ丁寧に仕上げた着物。
今は遠く離れているけど私の心は、いつもあの方の傍にいる。
本当なら直接、逢って渡したいんだけど……
それは無理だと思うから、佐助くんが来た時にでもお願いしよう。
「愛香さん……ちょっと良いかな?」
天井板が外れて佐助くんが顔を出してきた。
「うん。ちょうど良かった! 佐助くんに会いたいと思ってたんだ」
音も立てずに飛び降りてきた佐助くんは、顔を覆っていた布を下げた。
ん?
なんだか様子がおかしい気がする。
凄く困ったような顔
「何かあったの?」
「……実は……」
何度か喋ろうとして口を開くんだけど、すぐに噤んでしまう。
「ねぇ……どうしたの?」
「実は……信玄様が……」
「信玄様?」
信玄様の身に何かあったのかしら?
不安が心を支配していく
「動けなくて寝ているんだ」
「……嘘……でしょう?」
「それで出来れば……見舞いに来てもらいたいんだけど」
「勿論だよ! たとえ信長様に反対されても春日山城に行くから!!」
「あ、それは大丈夫だから」
「え?」
「信玄様は安土城下にいるから」
どういう事なの?