第24章 露天風呂/上杉謙信
「なかなか良い湯だな」
「そうですね」
見渡す限り雪に覆い尽くされている中での露天風呂。
まだ春は遠いというのに暖かい陽射しが降り注いでいる。
出来る事ならばこのままずっと、雪深い場所に謙信様と二人っきりでいたい__
そう願ってしまう。
心なしか柔らかい表情でお酒を煽る謙信様。
「温泉に浸かりながらの酒は格別だ。愛香も呑むか?」
「いえ……私は遠慮します」
お酒はあまり得意じゃない。
すぐに酔ってしまうから
お湯の中に浮かんでいる小さなお盆。
その上には盃と徳利。
いつものように一気にお酒を煽る謙信様。
普段と変わらない筈なのに何故だか艶っぽく見えてしまうのはどうして?
「何故、俺を見つめる?」
「この世のものとは思えないくらいに美しいので……」
「見惚れたのか?」
「はい……」
左右違う色の瞳が熱を帯びて私を見据えてくる。
右目は熱情をそのままに
左目は妖しく私を虜にする
「ずいぶんと素直だな」
「この乱世の世……いつ、どうなるのか分からないので……自分の気持ちには素直になりたくて」
春になって雪がとければ、謙信様は戦へと赴く。
そうなれば私だって覚悟を決めなければならない。
考えたくはないけれど……
もし、謙信様が__
そう考えるだけで怖い。