第8章 誰の顔も浮かんでこないわ
…これは、一体…?
コートの中央でポツンと残された三人に目をやると、修ちゃんは「ったく…」と呟き、ため息をつきながらこちらへ向かってくる。征十郎とテツ君もそれに習い、修ちゃんの後に続く。
「きゃ、主将?これは一体、なんなんですか?」
私同様、戸惑いを隠せないさっちゃんが言った。
「はぁ…。華澄、桃井。悪りぃが、チョコを配ってくれ」
「「……」」
何とも言えない複雑な気持ちになった。きっとさっちゃんも同じだろう。
仕方ないので、体育館の隅に置いておいた紙袋を持ち、先輩方から順に配っていく。
配りながらさっちゃんが「手作りなんです」というと「えっ?」という久保田先輩の声が聞こえたのは聞かなかったことにしよう。
「藍ちん!俺ちょー頑張ったよ!」
「そうね。約束通り二つね…」
あっくんの手の上に二つのガトーショコラを乗せると、あっくんは目を輝かせて喜んだ。
「ムッくん、私からも二つ!」
「あ…。うん、ありがとう」
少し沈んだような声が聞こえたのも聞かなかったことにする。
「藍川、今日の俺のラッキーアイテムはチョコ…」
「じゃなかったわよね。まあ、はい」
「華澄、早くよこせよ」
「そんなこと言う人にはあげないわよ」
「…すみません。ください」
「よろしい」