第8章 誰の顔も浮かんでこないわ
バレンタイン当日。
私は大きな紙袋を抱えて学校へ向かっていた。勿論中身は大量のチョコ。
結局私は無難にガトーショコラを作ることに決め、昨日の夜作り始めたのだが、途中でトリュフとか簡単なものにすれば良かった、と激しく後悔した。
おかげで徹夜し、二時間しか寝ることができず、目の下にはクマができている。
「おはよう、華澄」
「ああ、征十郎。おはよう」
朝練のため、体育館へ行く途中で征十郎に会った。征十郎は私の顔を見て、驚いた表情をしている。
「まさか寝てないのか」
「そのまさかデス」
ハハッと笑ってはみるものの、おそらくうまく笑えていない。
「無理はするな、と言っただろう?」
心配するように彼は私の顔を覗き込んだ。
「そういうわけにはいかないわ。これもマネージャーとしての仕事のひとつだもの」
「…マネージャーとして、か」
一瞬征十郎は寂しそうな顔をするが、何故そんな表情をするのか皆目見当もつかない。
そんなに心配をかけてしまったのか、それとも私の顔があまりにも酷いのか。
「そうそう。はい、これ」