第22章 絶対間違ってない
しかし、試合が進むにつれて、雲行きは怪しくなってくる。
「…井上さ、ん?」
第四クオーター残り三分。
得点は150‐81。
勿論勝っているのはこちらだ。
それよりも、井上さんの表情。
全てを諦めたような、どうせ勝てはしない、そんな表情だ。
大ちゃんもそんな井上さんに、ショックな表情を浮かべる。
「監督、大ちゃんを下げてください」
「…何故?」
「いいから早く!」
「ダメだ」
私は、ダメだとわかってはいるがスコアを放り出して監督に嘆願する。
が、監督は「ダメだ」の一点張り。
ダメよ、こんなの…。
折角、元に戻れると思っていたのに、絶対にそんなの嫌よ。
その時、コートから乾いた笑い声が聞こえてきた。
「テツ…、お前の言ったことは間違ってねぇと思う。けどやっぱ…ダメだわ」
会場はざわざわしてるはずなのに、何故だか、大ちゃんの声だけがクリアに聞こえてくる。
「俺の欲しいモンは…絶対見つかんねぇ。俺に勝てるのは、俺だけだ」
そして、大ちゃんはテツ君の拳を無視して走り出してしまった。