第16章 やめときな
あっくんは私が怒っていることを察したらしく、ゴクリ、と固唾をのんだ。
「ごめん…。だから怒んないでよ」
「わかったのならいいわ」
「藍川さん…僕もすみません…」
私が珍しく怒ったところを見たテツ君は、シュンとした顔で私に謝った。
「いいから、征十郎たちが戻ってくる前に練習再開よ。今回は黙っててあげるから、二人も仲直りしなさい」
「「……」」
やはり仲直りは嫌なのか、二人は黙り込む。
いつもなら放っておくのだが、今回は征十郎たちには黙って不問にしておきたいわけなので、そういうわけにもいかない。
勘のいい征十郎のことだから、二人の様子を見れば、すぐに気が付いてしまう。
「出来ないのならいいわ。それ相応の覚悟があるんでしょうね?」
「…紫原君、すみません」
「俺も、ごめん…」
「皆も、このことは一切他言無用。いいわね?」
「「「…はい」」」
皆が返事をしたのを確認して、私はコートを出た。
そして、私がコートを出ると、何事もなかったかのように練習は再開された。
「藍川っちがあんな怒ったとこ初めて見たッス。虹村さんにそっく…」
「黄瀬。あなたはサボりかしら?」
「なんでもないッス!」
私が(あっくん曰く逆に怖い)とびきりの笑顔で言うと、黄瀬はきびきびとコートのなかへ戻って行った。
「すまないな、あんな嘘まで吐かせて。お蔭で助かったのだよ」
ツーメンの自分の番を終わらせた真ちゃんが私の方へきて言った。
「嘘?」
「ああ。あの『選手生命を絶つ』というのだ」
「できないこともないわよ?」
私が言うと、真ちゃんは目を丸くさせて私をじっと、見てきた。
「誤った処置をわざとやって、そのままバスケさせるの。運が悪ければ一発でサヨナラね」
「……。何も聞かなかったことにするのだよ」
真ちゃんは私から目を逸らして、練習に戻って行った。