【恋の乱】才蔵さんと過ごす四季【章により裏R18あり】
第7章 夏〜甘い時の終り〜
「あと1日の続きは才蔵さんがまた帰ってきてからにしましょう」
「いつ帰れるかもわからないのに?」
そう言って顔を覗き込まれる。
ああ、そんな悲しそうな顔をしないでください。
私は無理に平静を装い言った。
「かなり長引くようなら…、そう、何か合図をしてくれれば私は上田に帰りますから」
「…」
「大丈夫です。馬に乗れば一人でも帰れますから。」
「…そうなったら誰か寄越す」
ああ、やはり行ってしまうんだ。
自分から行くように仕向けたけど。
私は胸がキリキリと痛むのを感じていた。
思ってもない言葉を発するのは難しい。
そして、やっぱり才蔵さんと離れるのは辛い。
ここでの生活が甘くて楽しすぎたから。
そして私は私は精一杯の笑顔を作った。
「行ってきてください」
「本当にいいのか?」
「はい…」
「あやね、ごめん…」
俺は最後にあやねに口付けた。
俺が何日ものんびりできるわけはないとは思っていた。
でも、もう少しはあやねと甘い時を過ごせると思っていた。
そう思うともう抑えがきかなくなってしまった。
あやねの全てを味わい尽くしておきたい。
俺は貪るようにあやねに口付けるしかなかった。
何の任務かはわからない。
すぐに済むのか、重いのか軽いのか、どこへ行くのかさえも。
こんな事は今まで何度もあった事だ。
上田ではいつもの事じゃないか。
でも、ここでの2日間の印象が強すぎて。
もう、あやね無しでは生きていけないような気持ちになってしまっていたから。
こんなに感傷的になっているのかもしれない。
どんな任務でも最短で済ませてまたあやねの元に戻ろう。
俺はそう決心した。
才蔵さんはカラスとともに行ってしまった。
縁側で庭を見つめながら私は自分の唇を指で押さえる。
さっきまでの口付けの余韻を確かめるように…。
今まで何度も口付けをされてきたけど。
一番激しくて長い口付けだった。
でも、甘くはない。
上田ではいつものことなんだけど。
どうしてこんな気持ちになったんだろう。
何も言わないで姿を消すなんてことも当たり前だったし。
才蔵さんもだけど、私もいつになく感情が高ぶって別れがかなり辛くなってしまった。
まるで今生の別れのような。
私は待つしかないんだよね。
才蔵さん、無事に帰ってきてください…。
