第1章 1話
私は何とか男を自分から退けようと必死で掴まれた腕を外そうともがいた。
「ふふっ、元気な子猫ちゃんは好きだよ。」
男の力は女の私と比べても歴然としていて全く微動だにしない。
どころか片手で私の腕を纏め上げ、扉の横のレンガで塗り固められたゴツゴツした壁に押さえつけられた。
男は私の腰を引き寄せ血なまぐさい口を近づけてきた。
私は涙で濡れた目で必死に嫌悪と憎悪で睨みつけるも軽くあしらわれた。
「いただきます。」
ご丁寧に菩薩のような笑みを向けられ、口付けられるのかと思い私は目を固くつぶった。
その瞬間首に鋭い激痛が走り痛みで目眩がした。
「いたっ!!」
痛みでさっきとは比べものにならない大粒の涙がとめどなく流れた。
男は私の苦痛に歪む表情に薄ら笑みを浮かべていた。
やつの口は私の首の一部の肉を咥えていた。それを一気に飲み込むとまた顔を近づけてきた。
今度もまたさっきのような痛みが来るのかと思うと固く閉じた目からは涙が止まらなかった。
「とても美味しい、変わった味が癖になるよ。それに………いい表情だ。」
耳元で嫌に優しくそう囁かれ気がおかしくなりそうだった。
「いやぁっ!!」
突然鎖骨に生暖かい柔らかな物を感じ声が出た。
そこに目をやれば男が私の止まらず流れ続ける血を吸っていた。
「誰か助けて!!お願い!!!誰か!!」
「泣いても無駄だよ、この街の人々は全員俺の腹の中だ。君もすぐに仲間に入れてあげるからね。」
「いや、そんなの嫌だ!!離せ!!」
「諦めなよ、逃げた所でまた捕まる。」
男は私の叫び声を無視し首を齧り続けた。
「それにしても、お嬢さんは変わった味のお肉をお持ちなんだね。……ん??」