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光城の月

第1章 はちみつが甘いから








あ、死ぬ!


と反射的に体を丸めて頭を守るようにうずくまる。
時計を床に落としてどうしてそんなことを思ったのかはわからない。けれど確実に、私は自宅ではない別の場所にいた。

暗くて、何も見えなくて、何も感じない───





「!」


ゆっくり目を開くと、そこは自宅でもなく暗闇の中でもなく全く見知らぬ山奥だった。

なにがどうなっているのか理解できず、辺りを見渡してみるが本当にここがどこなのかもどうしてこんな場所にいるのかも見当もつかない。
文字通り未曾有の事態に陥ってしまっていた。

(どうしよう!とりあえず警察に連絡…いや先に家に連絡か)

スマホを手に取ろうとするが、そこには石ころが転がっているだけでいつもみたく傍にスマホはなく、そこでようやく自分が身ひとつでこの山奥にいることに気が付いた。
なんてこった!と思わず頭を抱える。


すると、しどろもどろになり道端に座りこんでいる私の後ろの方から何かが駆けて来る音が聞こえてきた。
ドス、ドス、ドスと何かが遠慮なしに地面を踏みつけるようなそんな…

土埃と共に向こうの方から顔を出したのは、数頭の馬だった。




「あがっ」


───やばい!
そう思う数秒前に私の体は後ろに勢いよく引っ張られてそのまま森の茂みの中で誰かに口を押さえつけられながら、道端を駆けて行く数頭の馬を目だけで見送った。

間の前に広がっていく土埃と、遮られている口元が相まってつい涙目になってしまう。
馬に蹴飛ばせれなかったのは助かったけど、一体だれが──。




「馬鹿野郎!死にてんか!!」



私が振り返る前に、すぐ耳元で物凄い声量の怒号が鼓膜を突き破る勢いでこだました。
思わず耳を押さえながら振り返ると、いかにも時代劇とかに出てきそうなTHE農民っぽい恰好をした男性が私を睨みつけている。

その姿を見た私の脳内は(?????)だったのだが、パッと塞がれていた口元の手をはがされ、考えるより先に大きく息を吸い「ここはどこですか!」と叫んだ。


すると、
男性は後ろにいた仲間らしきガタイのいい男性と目配せをして何かを確認したかと思うと、その仲間の男性が私にヌッと大きな手を伸ばしてそのまままんまと俵担ぎにされてしまった。




───────(え?)











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