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光城の月

第3章 濡れ衣大明神







だけどそんな光景を、阿古さん命の聖くんが見ていて正気を保っていられるはずもなく…



「貴様ーーー!!私ですら触れたことがないというのにーー!!」

「ほいじゃ、おまんも触ればええっちゃ」

「キーーーーーー!!!」



思わず手が出そうになる聖くんを、傍で待機していた従者さんが必死に止めに入る。
本当に聖くんは阿古さんのことになると覇気が凄いというか…過保護すぎるというか。
まぁ今の阿古さんは顔が似てるだけの別人なんだし、そんなに怒らなくてもいいんだけどね。

確かにこの時代の人ってこんな過剰なスキンシップは取らないというか、こうやって初対面の人に触れるのは珍しいのかもしれないな。

怒り狂う聖くんを笑いながら指差していたその男性は、私の手から名残惜しそうに手を離すと汚ごれていた袴の煤をパッパと振り払う。
そして、かしこまった様子で突然頭を下げた。



「頼む!一日でええから、ここに泊めてくれんやろか!」

「ええ!?」






「ぷはー!風呂のあとの酒は最高やきー!」


ガハハハッと楽しそうに笑う彼を見ながら、私は隣にいる聖くんへ視線を移す。

(ヤバい…顔全体が「怒り」を表しちゃってる。二人きりにしたらどうなるかわからんなこれは…)
普段の私への柔らかな表情からは想像の出来ないその明王像みたいな顔を忘れないように頭に焼き付ける。
彼を本気で怒らせてはいけないな、と。



「お侍様、お夕食の用意ができました」

「おお!ありがたいにゃー」


後ろに数人の女中さんを連れたお義母さんが、しなやかな手つきで男性の前に豪勢な料理を置いていく。

お義母さんにはてっきり拒否されるかと思っていたのだけど、彼が武士だと知るや否やあの騒動を止めてくれた恩もあるということで、こうして大層なもてなしを施していた。
怒られなくてよかった…正直絶対に許してもらえないと思っていたから。
彼もお風呂に入って清潔になったみたいだし、一日だけと言っていたから、たまにはこんな日があってもいいよね。

ここ最近は家全体がどこか張り詰めていた雰囲気があったし、この人のお陰でちょっとだけそれも緩んだ気がする。


「ではごゆるりと」


お義母さんが部屋を後にすると、聖くんは顔の「怒」を強くする。
まだ警戒心が解けていないみたいだ。



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