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光城の月

第3章 濡れ衣大明神








私も後ろの方から見ていることしか出来ずにいると、向こうの方角から一人の男性が歩いて来て、門の前に近づくと何かを見つけたように小走りでやって来た。



「おーい!おまんら、何しゆうがか」


激しい言い争いをしている最中だというのに、その人はまるで談笑している友人に声をかけるようにしてその内の一人の肩を組んで口を開く。
すると、本当に知り合いだったのか肩を組まれた男性が「たっちゃん!」と顔を明るくした。
それに続いて両者関係なく、数人の男性がその人に声をかける。

(たっちゃん…)
そう思っている矢先、そのたっちゃんと呼ばれた人は両者の間に仁王立ちすると各々先頭に立っていた男性二人に何かがくるまった小包を差し出した。



「これで解決っちや」


一体何がどうなったのか、そんなことを考えている合間に両者の小競り合いは終幕し、いつの間にか落ち着いた二人の頭らしき人物がお義母さんへと何度も何度も頭を下げていた。

良かった…何はともあれやっと話を出来る状況になれた、と安堵のため息をつく。
詳しい話をする為にお義母さんと頭の二人が離れの部屋へと移動すると、玄関に集まっていた従者の人たちがそれぞれの持ち場へと戻っていった。


───────(ふう、私も部屋に戻ろう)

そう思い振り返ろうとすると、誰かにガッと腕を掴まれた。



「阿古様!」

「おまん名前は!?」



………ん?

同じタイミングで掴まれた両腕を交互に見ながら、私は目をぱちくりさせる。
玄関の中には、少し怒った顔の聖くんがいて、玄関の外にはさっきの「たっちゃん」と呼ばれていた救世主が私を見ていた。
私を呼んだ聖くんの言葉を聞いて、その男性は「阿古か、ええ名前ちゃあ」とほほ笑む。



「お前!阿古様から離れろ!」

「いや~江戸にもこないな美人がおるきに思っちょらんかったぜよ」

「おいこら聞け」



手を取ったまま、その人は自分の頬にすりすりと私の手のひらをこすり付ける。
初めてそんなことをされたものだから驚いたけれど、この人の触れ方には下心がないというか、何故だか嫌な気持ちはしなかったけど、よく見ると全身が煤汚れていて頬には土がこびりついていた。

(何かあったのかな)
「餅みたいじゃ~」というその人を見ながら、呑気にそんなことを考えた。




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