第2章 垢をください
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私をこの道場まで連れて来た彼女の名前はみつさんというらしい。
そしてあの弟の宗次郎くんはみつさんの実の弟で、この道場の塾頭?とかいうこの道場の中でも一番腕が立つとかなんとかで凄く強いらしく、他の門弟からも一目置かれているとか(鼻水少年談)
なんでそんなこと聞くのー?と首を傾げられたのは言うまでもないことだが、とにもかくにも彼女の名前を知れたのは今日一番の収穫だった。
阿古さんとかなり仲が良かったのだろう。
みつさんはまるで姉妹のように私に接してきた、けれどその度に自分が阿古さんではないことのへの罪悪感と、自分を自分だと思って接してもらえれない喪失感が私の胸を締め付ける。
山崎さんや高津さんは元々阿古さんのことを知らないから、自分として接することができたし、
聖くんやお義母さんは友達というか身内みたいなものだからそんな思いをすることよりも、バレないかを気にしていた。
けれど、
純粋に友達として向けられた笑顔に、私はやはり堪えるところが多かった。
これはこの道場の人たちにも当てはまることで、前から阿古さんのことを知っている人たちに笑顔を向けられるとその度に、私にはそんな資格はないのにと苛まれるのだ。
「勝太さん!」
あ、そう言えばみつさんずっとこの人を探していたなぁ…とまるで他人行儀に駆けていく彼女と、その前にいる骨格のしっかりした男性を眺める。
何かを話している様子の二人は兄弟のような、幼なじみのような、恋人のような、どれを当てはめても違和感がない程仲が良さそうだった。
(恋人か何かなのかな)
そう思いながらも、みつさんが私を手招きするのでおずおずとその場に向かう。
「阿古さん、久しぶりだな」
みつさんから視線を移し、笑顔でそう告げられれば何故だかこの人は「大丈夫」だと思えた。
何が「大丈夫」なのかは正直自分でもよくわからない。
なんというのだろうか、山崎さんも高津さんもみつさんも、今までこの世界で出会って触れ合ってきた人は一様に段々と警戒心が解かれていったのだが、この勝太さんはたった一言話しかけられただけで、何か安心感が湧き出てきたのだ。
この人の纏う雰囲気のせいかもしれない。
静かに流れる滝水のような、矛盾しているけど本当にそんな感じだ。
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