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光城の月

第2章 垢をください








「あ、お、お久しぶりです」


そうだ、挨拶しなくちゃ!と、口を動かしてみるも出てきたのは久しぶりに人と話したコミュ障のような挨拶で、隣にいたみつさんが「敬語だったっけ?」と首を傾げる。

年上だなって判別した人にはだいたい敬語を使ってきたのだが(中には年下の人もいた)この勝太さんは年とかそういうことを抜きにして、つい敬語が出てきてしまったというか…いや、正直絶対にこの人阿古さんより年上だと思うし…



「いいよそんなことは、君は前もそうだったなぁ」

「そうそう!勝太さんが『俺は年上だけど敬語なんて使わなくていいから』って言った次の日に敬語を使ってたものね」



あははは、とみつさんが口を広げて笑う。

そうだったんだ…と、なんだかずっと遠かった阿古さんを身近に感じることができた。
…もしかしたら私と阿古さんは姿形だけでなく、考え方も似ているのかもしれない。

みつさんに笑われているにも関わらず、どこか嬉しいと感じている私を見て、勝太さんはきっと疑問に思ったのだろうが優しい人なのだろうそのことには触れずに、先ほど同様穏やかな表情のまま口を開いた。



「明後日の襲名披露、来れそうか?」



(しゅ…?)
襲名披露ってあの歌舞伎の海●蔵の息子さんがやってたあの?
何がどうなのかよくわからないまま答えられずに突っ立っていると、みつさんが突然私の左手を握って頭上に掲げた。



「ぜーったいに連れて来るから!あの側近君は足が遅いし、お義母さんにはなんとか誤魔化せばいいのよ!」


わけがわからずにぽかんとその言葉を聞いていると、みつさんが付け足すように「約束したものね!」と私と勝太さんを交互に見る。
(阿古さんが前にこの二人と約束をしたのか)

やっと状況が理解できた私は、一体なんの襲名披露なのか聞くことも出来ないままコクコクと頷いてしまった。


───────ああ、流されて流されて流れまくりだな、今日は。







夕方になってやっとみつさんの手から解放された私は、
彼女と勝太さん、弟くんと鼻水少年に見送られながらその道場の門をくぐり抜けた。

帰り道一人では危ないから付き人をつけようと勝太さんに言われたが、もう正直人と話す元気がなかったので気持ちだけを受け取って帰路についたのだった。



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