第2章 垢をください
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すると、
慌てふためく私たちを見たそのうちのひとりが、思わず「ぶッ」と吹き出してしまったので、
その音が一瞬静かになった道場に響いてしまい、その人は咄嗟に口元を抑える。
だが時すでに遅し、先頭で指揮をとっていた私よりいくつか年下に見える青年が、
ずかずかとその吹き出してしまった彼に歩み寄った。
(うわ…やってしまった)
どう見ても年下の青年から叱責を受ける男性を見ながら、私は顔を青ざめる。
あんなに一生懸命稽古していたのに、一気に場の空気が緩んでしまったし、これどう考えても私たちのせいだよね…
ちらり、
隣の彼女を見ると、何だか腑に落ちない表情で声を荒げる青年を睨んでいた。
ん?睨………?
「宗次郎!」
「!」
バっと茂みから立ち上がった彼女が、鼻水を垂らした少年を腕に抱えながら道場全体に響き渡るような声量で誰かの名前を呼んだかとと思うと、
吹き出してしまった男性を叱りつけていた青年が、慌てた様子でこちらに目を向けた。
なんだかさっきよりおぼこい表情になった青年は、途端に肩をしぼめる。
「その人は悪くないでしょ!悪いのは私と、あんたの”友達”のこの子じゃないの!」
「……姉さん」
──────(ね、姉さん!?)
どうやら隣の私を連れ出した彼女は、青年のお姉さんだったらしく、そう見るとどことなく目と口元が似ている気がする。
というか、今この鼻水少年を友達って言った…?彼の…?
顔を真っ赤にする青年を見ながら、この子はお姉さんには頭が上がらないということを察した。
なるほど。
だから敢えてお姉さんと鼻水少年を責めるのではなく、吹き出してしまった彼に迫ったのか。
この様子じゃ、反論することもままならないっぽいし。
道場の人たちも、どことなく慣れているような感じでこの場を見ているので結構こういうことがあるのだろうか。
「ほら!さっさと稽古再開しなさいよ!」
「……はい」
パンパンと手を打ち鳴らす彼女に、消え入りそうな声で返事をしながら、元いた位置に帰っていく青年の小さな背中を見て何とも言えない気持ちになる。
こっちが100対0で悪いんだけど、申し訳ないことをしてしまったな…
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