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光城の月

第2章 垢をください








ここがどこかの道場だということはわかったのだが、心の片隅にある不安を一向には拭いきれなかった。

私は今、高橋遥香ではなく阿古さんなのだ。
それを忘れてはならないし、万が一にも私の正体がバレたなら家から放り出され、そのまま死んでしまう可能性だって無きにしも非ずで…流れで連れて来られたはいいけど、ちゃんと阿古さんとして接しなければならない。

けど──────




「やった!今日は出稽古に行ってないみたい、行きましょ!」

「……う、うん」



(阿古さんってどんな感じで話すんだーーー!!!)

もうこうなったらやけくそや、どうとでもなれ!という気持ちで彼女に手を引かれその道場とやらに向かった。








「「「やーーーーッ!!!」」」



何人もの男性が一斉に腹から声を出して、木刀を振りかざすその光景は現代ではそうそうお目にかかれない貴重なものだった。
もしここが本当にタイムスリップした”過去”だとしたなら、尚更のこと。

本当に真剣を持っているかのような気迫が、喉の奥まで伝わってくる。
私は歴史に疎いし、正直今が戦国時代なのか江戸時代なのかどの時代なのかよくわかってないけど、目の前に映るその人たちの真摯な気持ちだけは本物だとそう実感した。


道場から少し離れた庭の木陰で、彼女と二人で隠れながらじっと中を覗いていると何だかいけないことをしているみたいで罪悪感があるけど、
なんとなく、隣の彼女でさえ陽気に話しかけることが出来ない空気がその道場からは漂っている。


(───────すごいなぁ)

ただただ感銘を受けながらそれを見ていると、後ろから何かがかすれるような音がして私は咄嗟に振り返る、するとそこには数人の子どもたちが手に饅頭のようなものを持って立っていた。




「みっちゃんと阿古ちゃんなにしてんのー?」

「うわうわうわ馬鹿!声出さないの!」



鼻水を垂らしたどこかアホの子っぽい男の子が割かし大きめの声でそう言うと、みっちゃんと呼ばれた彼女は慌てふためいてその子の口を手で塞ぐ。

これには私もびっくりして、道場の方へ視線をやると後ろで木刀を振っていた数人の男性が私たちに気づいたようで振り返っていた。











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