第2章 垢をください
.
あー…。
スマホ触りたいな。テレビも見たいし、お菓子も食べたい。
コンビニスイーツ食べたい、カラオケ行きたい。
あ、カラオケは今ダメだったっけ…
阿古さんの自室で畳に寝転びながら、天井を仰ぐ。
しみひとつない、綺麗な木目を見てうーんと背筋を伸ばしてみるも、何も楽しいことはない。
本当に残念な話なんだけど、多分これ、本当にタイムスリップしちゃったかもしれない。
話が全く通じないのだ。周りの人たちと。
身の周りの世話をしてくれる女中さんがよく私に話しかけてきてくれるけど、そのたびに不審がられる。
会話がかみ合ってないのが原因なのか、私が阿古さんじゃないと薄々バレているのか、審議のほどはわからないけど居心地が悪いったらありゃしない。
それにこの時代のお菓子ってなんか味が薄くてスナック系が全然ないし、そろそろじゃ●りこ食べたくなってきたなぁ。
ガサガサ、
項垂れていた私の耳に、何かがかすれるような音が入ってきてバッとその畳から起き上がる。
廊下の方からじゃなく、窓の方から物音がする。
ここは二階だ、カラスでも木に止まったのだろうか。
窓を開ければ、庭にはえている大きな一本杉が見えるのだがそこにはよく鳥が止まるのだ。多分それだろう。
けど一応物取りかもしれないから注意すように、と聖くんに言われたばかりだったので、ゆっくりと窓の障子に手をかける。
「わっ!」
「ぎゃっ」
──────────落ちる!
とっさに伸ばした手を、私が落ちそうになった原因の主がパッと掴み私の体をぐっとそちらに引き寄せた。
なんてこった!ここは二階だぞ!
慌てふためく私をよそに、
その人、彼女は驚かしてきた時と変わらないいたずらっ子のような笑顔を浮かべたまま、登っていた木から私を担いでジャンプしたのだ。
(正気か!?)
いくら私が女だとはいえ、同性の彼女が私を抱えたまま木から地面に着地するなんて無茶だ!
そんな私の心配もよそに、彼女は器用にも木の枝を使って手慣れた手つきで地面に降りた。
まるで、もう何度もこの木に登り降りしているような…。
「久しぶり!元気してた?」
抱きかかえていた私の腰から手を離し、パッパッと着物の裾を手払いしながら彼女は笑顔でそう言った。
.