第19章 男女の契りは誰かに言いふらすことではない 〜待っている人〜
「わかったアル」
女は玄関へ行って靴を履いた。神楽は女を見ながら口を開いた。
「……昨日、銀ちゃんは昏葉とずっと呑んでたアルカ?」
「え?」
昏葉はその質問に驚いて神楽を振り返った。
「……」
少女は体の後ろで手を組んでいる。
「……ずっとじゃないわ。私も酒場で呑んでた時に、たまたま会ったの。あいつが結構酔っ払ってたから、知り合いのバーに連れてって落ち着くまで待ってたの」
「……朝までずっとアルカ?」
「……」
ー鋭い。だが、本当のことを話すわけにはいかない。神楽はまだ未成年だ。それに……。
(男女の関係なんて……誰かに言うことじゃないしね)
女は作り笑いを浮かべた。
「えェ、そうよ」
昏葉は立ち上がった。
「バーに移った後も呑んでたしね。それもあって、結構吐いてたわ」
「そうアルカ」
神楽は少し寂しそうに微笑んだ。
「……もしかして、ずっと待ってたの?」
少し疲れた様子の神楽を見て、昏葉は聞いた。
「ううん。すぐ寝たアル。でも……何回か目が覚めて……」
ーその度に、銀時が帰って来ていたか確認していた。
「……」
(銀……)
ーあんたにも、帰りを待ってくれる人ができたのね……。
「次、酒場で会うことがあったら……早く帰るように言うわ」
「え?」
昏葉は神楽に微笑んだ。
「それでも帰らなかったら、今日みたいに引き摺って連れて来るわ」