第4章 何よりも自分の命を大切にしろ 〜紅の花が咲く時〜
「あいつは税金泥棒なんかに負けねェよ」
「そうですかィ。そりゃァ、楽しみだ」
沖田も顔をニヤリとさせた。
(これで土方が負けてくれたら、ざまあみろでさァ)
隊士たちに見守られる中、昏葉と土方の勝負が始まった。昏葉は土方をじっと睨んで、隙がないか探っている。土方も同じことをしていた。
「……」
(やけくそに突っ込んで行ったら負けるな、こりゃァ。こいつ……)
ー全く隙がねェ。
目の前にいる女はただ、こっちを見ているだけだ。それなのに、ただ立っているだけなのに、その迫力が半端ではない。
「……」
土方は昏葉に刀を向けたまま、ゆっくりとその間合いを詰めて行く。昏葉はその行動の一挙一挙を気にしながらも、確実に一発で倒す隙を探っていた。
「……」
すると、土方が前足を踏み出して、昏葉に向かって斬りかかってきた。
(……来た)
昏葉は飛び上がって、土方の頭上を回転しながら、彼の後ろに着地した。
ガキィン!
「チッ」
昏葉は舌打ちをした。ーー男の右の二の腕に巻かれた布を斬ろうとしたが、素早く後ろを向かれたため、防がれてしまったのだ。
ぶつかり合っていた刀を離して、昏葉は土方に斬りかかった。だが、簡単に受け止められてしまう。
「ふっ……」
その瞬間、昏葉が笑った。ーー勝利を確信したかのように。
「もらった……」
そう言うと、女は刀に全体重を預けて、逆さまになった。
「なっ……」
そのまま、土方の後ろに回って二の腕に巻かれた布を……。
ザッ
ーー斬った。
「……」
土方は斬られた布を呆然と見つめた。
「勝負ありね」
昏葉は刀を肩に担いで笑った。