第10章 H27.5.4. 桃井さつき
「来週の月曜日、お出掛けしませんか」
夢を、見ているのかと思った。
目の前には私の好きな人。
いつも冷静沈着で、すごく優しくて… でも、バスケや仲間のことになると誰よりも熱くて…。
そんな彼が、私をお出掛けに誘ってくれている。
「も、もちろん!!」
彼は黒子テツヤくん。
ある日私は彼に恋をした。
初めての感覚に戸惑いもしたけれど、それと同時にワクワクした。
* *
「テ、テツ君お待たせ…」
「桃井さん。おはようございます。ボクもさっき来たばかりなので大丈夫ですよ」
嘘ばっかり。
私見てたんだから。
緊張して、陰に隠れてからここにたどり着くまで15分もかかった。
その間、ずっとここで待っていてくれてたじゃない。
…テツ君は本当に優しいんだから。
「…桃井さん」
「ん?」
「今日は一段と綺麗ですね」
「テ、テテテテツ君?!?!」
「本当ですよ」
テツ君の言葉に他意なんて無い。
それはわかっている。
わかってはいても…嬉しい。
「あ、ありがと…」
「はい。…それでは行きましょうか」
「うん…!」
今日というこの日は、今までで一番の特別な日になりそうだ。
「んー、おいしい!」
「良かったです」
私達はあるカフェに来ていた。
温かみのある、綺麗なカフェ。
メニューにはパスタを中心にデザートなどもあった。
パスタもデザートも美味しいし、店の雰囲気もすごく好きだ。
だけど、テツ君こんな所知ってたの…?
「桃井さん?どうかしましたか?」
「へっ、あ、いや!なーんにもないよ!」
「…そうですか」
まぁ、そんなことどうでもいっか。
だって、今はテツ君が私のためにこんなお店に連れて来てくれて、2人きりで、目の前で微笑んでくれてるだけで充分だもん。
「テツ君、楽しいね!」
「はい」
未だに夢心地だけど、確かにこれは現実で。
突然何があったのかはわからないけれど、今は考えない。
「桃井さん」
「ん?どうしたの?」
「本当は次の場所まで我慢するつもりだったのですが…」
「え?」
テツ君は少し困ったように眉を下げると鞄の中から何かを取り出した。
テツ君にしてはいつもより荷物が多いなーとは思っていたけど、まさかその中からある物が出てくるなんて私は想像していなかった。