第6章 H27.7.7. 緑間真太郎

「緑間君いますかー？」



とある日の昼休み。
秀徳高校1年生の教室を訪ねて来たのは、3年生の女生徒だ。
彼女が呼んだのは、緑間真太郎。
その本人よりも一早く反応したのは、言わずもがな高尾である。



「緑間ならここっすよー！」
「高尾」
「あっ、良かったー。いたいた！」



緑間が立って彼女の元へ歩こうとするが、あちらから真っ直ぐ緑間の席へやって来た。



「うわっ、やっぱりこう改めて見ると…大っきいねー…」
「あの…」
「あ！そうだ、これね。放課後までに目通しておいてね」
「あ、ああ、はい。わかりました」



女生徒は緑間に何かの紙だけ渡して、教室を立ち去った。
緑間はそれを手に、前に座る高尾の刺さるほどの視線を無視して座り直した。



「真ちゃんもしかして…」
「うるさいぞ高尾」
「いやぁ、オレまだなんも言ってねえけど？」



ニヤニヤとする高尾に心底うんざりしながら、緑間は次の授業の準備をした。
しかし高尾はお構いなしである。
一体今の先輩は誰なのか、どういう関係なのか。
高尾からの質問の嵐は収まりそうにない。



「いい加減にしろ、高尾」
「じゃあそろそろ教えてくんね？気になって夜も眠れねえわ」
「眠らなければいい」



緑間は一切高尾の方を見ない。
しかし、確かにそんなに隠すほどの事でもないだろうに。



「誰なのかくらいいいだろー」
「……体育委員の先輩だ」
「なんだ、そういうことね。じゃあさっき貰ったのも体育大会かなんかの資料ってことか」
「ああ、そうだ」



どうしてさっきまで中々教えなかったのか。
高尾は未だに釈然としていない。
そして質問の嵐は再開された。



「で？」
「は？」
「真ちゃんはさっきの先輩が好きなの？」
「なっ、何を言うのだよ？！」
「動揺しすぎだろ！」



が、緑間はわかりやすい。
好きなのかと問われただけで赤面して動揺しているようでは、バレバレである。



「マジかよ真ちゃん！やるじゃねえか！」
「なんの話だ」
「もー、照れなくていいって！頑張れよ！」
「うるさいのだよ！！」



まさかあの緑間に好きな人が出来るとは。
高尾はもちろんのことだが、きっと緑間本人ですら驚いているだろう。
全く初めてというわけではなくても、ここ数年はバスケと勉学だけに集中していたのだから。