第3章 H27.7.29. 笠松幸男
「ありがとうございました」
結局寄り道することは止め、私は家まで送ってもらった。
「おう。…ていうか、こちらこそ。楽しかったぜ」
「それは良かったです」
むしろ楽しませてもらったのは私の方だ。
話も合うし行きたいところにも行けせてもらい、先輩のいろんな姿を見て家まで送ってもらって。
だから、先輩は無意識にちゃんと男らしさを発揮出来る人なのだ。
ただ、無意識というのもそうだし、あとは女子に対する免疫をどうにかすれば問題無いと思う。
まぁ、それが一番の問題なんだけど。
「じゃあな」
「はい。気をつけて」
「おー」
さて、と階段を上りドアを開く。
やっぱり。
後ろにいたはずの黄瀬はいつの間にかいなくなっていた。
森山先輩は相変わらずだったが。
そしてその黄瀬は先回りして家に帰っていたようだ。
「ただいまー」
「お、かえりなさい!」
心無しか少し息切れしているが、あえて突っ込まないでいてあげよう。
ついでに、制服でいることも突っ込まないでいてあげる。
私の優しさに感謝して欲しいくらいだ。
「さーご飯作るからねー」
「オレも手伝うっス!」
その後の黄瀬の態度は少しよそよそしく、デートのことについて質問攻めになったのは言うまでもない。
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「どうだった笠松!」
「あ?」
「デート!」
翌朝、部活に来るなり勢い良く迫ってきたのは、言わずもがな森山である。
笠松は どうって… と心底鬱陶しそうにするが、森山には通用しない。
相変わらず質問の嵐だ。
「ったく、うるせえな!」
「1個くらい答えてくれてもいいだろ」
「…はぁ、まぁ、悪くはなかった」
悪くはない、って何?と一瞬首を傾げたが、その微妙な変化に森山は気付いた。
気付いてしまったのだ。
「笠松…」
「なんだよ」
「…いや、何もない」
「あっそ」
そうして海常バスケ部の主将は、これまでに無い満足感を得たのだった。
2015.07.29.
Happy Birthday to Yukio...