第6章 お兄ちゃんオーバーケア②(轟 焦凍)
▼ 夜3
ニーチェは言った。深淵を覗き込む時、深淵もまたこちらを覗き込んでいるのだ。
焦凍兄さんに抱きつかれている時、私は思う。
「兄が妹に構っているとき、兄もまた妹に構ってもらっているのだ」
「どうした」
「いや、なんでもない」
アイスを分けてもらい、マニキュアも綺麗に乾いた。満足したので、お礼に兄さんにお茶を入れてあげた。ふたりですすりながら、とりとめのない会話を交わす。
そろそろ学園祭なんだよねぇ、なんて壁にかかったカレンダーをめくり、そうだ、と私は思い出す。
「うちの中学、もうすぐ衣替えだったか。クローゼットから秋服引っ張りださなきゃだ」
「出しといたぞ」とすかさず焦凍兄さん。
「いや勝手に触るなや」
指で示された方向を目で追う。気がつかなかったが、部屋の隅に置かれた箪笥の上に、セーターが数着畳まれている。
ありがたいけど、プライバシーがな・・・とブツブツ言いながら、近づいて手に取った。去年買ってもらったセーターだったが、記憶より手触りが良い。っていうかこれ、あれ?
「めっちゃ綺麗にお手入れされてる……!えっなにこれ新品か!?」
動揺して振り返ると、兄さんが誇らしげに頷きを返してきた。
□ 昨日のお休みにやりました