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午睡 - 僕のヒーローアカデミア

第6章 お兄ちゃんオーバーケア②(轟 焦凍)




 
「なまえ、悩んでることはないか?疲れてないか?学校で、嫌なことはないか」
 
「それさ、さっきお父さんにも同じこと聞かれた」
  
 
なまえが生まれた時のことは、俺も2歳を迎えたばかりの頃なので覚えていない。親父は俺を他の兄弟と隔離させていたこともあって、物心ついた時にはすでに妹がいた、という状態だ。
 
同じように、なまえも母親の記憶がほとんどない。こいつは何も知らなくて、お母さんは元気になるために入院しているとだけ聞かされている。

家族に暴力を振るう父の姿も、子に憎しみをぶつける母親はどんな顔をするのかも、何も知らない。
 
 
「どうしたの兄さん、急にぼんやりして」
 
妹が不思議そうな顔をする。何も知らないし、何も聞いてこない。俺の火傷の痕のことも、両親のことも。妹なりに何かを悟って、気遣っているのかもしれないと考えると、胸が締め付けられる思いがする。
 
 
「いいか、なまえ」
幸せに生きていってほしいと思う。「人間、辛いのは存在を否定されることだ。わかるか」
 
 
うーん、と首をかしげられる。この話に実感が沸かないというのは、それだけ孤独を感じてこなかった証明になるのかもしれない。
 
 
「悲しいことがあったとき、悲しいことがあった、と話せる相手がいないのは、一番悲しいことだ」
 
「そうだね」
 
「だから、何かあったら、俺に言え。言いにくいなら、姉さんにでもいい」
 
 
居場所を作ってやる。それが家族の役目だと思うから。
 
 
 
 
「偉いねえ。焦凍兄さんは」
真面目な話が照れ臭いのか、なまえは肩をすくめた。「さすがヒーローの卵だ」
 
「ヒーローとか、慈善活動とか、そういうの関係ねえだろ。なまえのことが大切で、心配で、守ってやりたいって思うんだ。趣味で」
 
「あっ趣味って言っちゃったよこの人」
 
ケラケラとおかしそうに笑い、甘えるように俺にもたれかかる。ふっと優しい表情に戻る横顔が、お母さんや、姉貴によく似ている。
 
 
「大丈夫。お父さんも、兄さんたちも、姉さんも、みんな私の自慢だよ」
 
「なまえ…………」
無邪気な言葉に、安堵する。

「俺が言うのもアレだが、お前はメンタルが強いな」
 
「兄さんの妹だからね」
 
 
 
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