第1章 偏屈者の行き着く先は(轟 焦凍)
「しょーと!焦凍!!轟 焦凍くん!!!」
昼休みを告げるチャイムの直後、教室に女の子が飛び込んできた。
「ごはん!一緒に食べよ!」
ぱっと明るい笑顔のその子は、あろう事か轟くんの席にまっすぐ駆け寄ったので、周りの僕らはあんぐりと口を開けた。
この世界に、轟くんのファーストネームを呼び捨てにする女の子がいるなんて。前代未聞だ。
「あのね焦凍!私ね、お弁当作ってきたの!」
「………おう」
「見て、焦凍の分もあるよ!今日のメインはねー、」
「………」
「じゃじゃーん!ハンバーグです!なんと手作り!」
「………」
なんなんだ、あれ。
机に頬杖をついたまま、ひたすらそっぽを向いてる轟くん。
そんな彼の隣の席に勝手に座り、勝手に二個分のお弁当箱を広げる女の子。
目の前の未曾有の光景を眺めていたら、ちょんちょん、と誰かが僕の肩をつついた。
「ちょい緑谷。なんなんだ、あれ」
“個性:帯電”の上鳴くんだ。まるで色鮮やかなキノコを見るかのように、轟くんたちを眺めている。
「なんなんだろうね。僕も知りたい」
「あんな可愛い子……この学校にいたか!?おい!」
「そこ!?」
相変わらず節操ないね!?
「サポート科でも経営科でも見た記憶ないぞ、ってことは、普通科の子か!?よくこの教室に入れたなぁ!」
「上鳴くん……もしかしてだけど、近場のクラスの女子はみんなチェックしたわけ?」
「当たり前だろ。もう可愛い子はだいたい飯に誘ってる」
「そんで、全員に断られたんでしょ。残念電気め」
いつの間に隣にきたのか、耳郎さんが鼻で笑った。「いい加減、自分の身をわきまえなさいよ」
「ん、だ、と、このイヤホン女」
「あら、褒め言葉ありがと」
“イヤホンジャック”が個性の耳郎さんは、耳から生えたプラグを僕たちの目の前でゆらゆらと揺らした。彼女はこのプラグを使って、狙った相手に爆音を届けたり、逆に小さな音をキャッチしたりできるんだ。応用のしがいがある良い個性だ。