第3章 I'll bet she will - - - (上鳴電気)
お喋りに華を咲かす女子の声が廊下から聞こえてくる。恋バナから今日食べてきた朝ご飯、下ネタ、愚痴と明るい未来予想図。先程から話題は転々と移り変わっている。
3人、と私は頭の中で思い浮かべた。
会話の中心にいるのは右端の女子、手に持っているのはビニール袋だ。カサつきが目立つこの音、学校の売店の袋だと分かる。真ん中の子は風邪気味だろう。最後の一人は退屈しているのか、無難な相づちしか打っていない。
教室の机に座ったままでも、周囲の情報は私にどんどん集まってくる。
腕時計の秒針、誰かの制服のポケットに入った小銭、教室の空調は経年劣化か、微かに異音が混じって聞こえる。 足音、お喋り、空気の流れが変わる音 ーー - - -
私は他の人と比べて、少しだけ耳が良い。らしい。普通の人はこの世界がどう聞こえるのかはわからない。医者曰く、聴覚が異常に発達している個性。音声に対してのみ、脳の処理が長けてると言ってもいいのかもしれない。とにもかくにも、便利だと思ったことはあまり無い。
それはさておいて、私は机の上にスマートフォンを1台、それはそれは丁寧に乗せていた。つやんと輝くボディに、あぁ、と声を漏らしてしまう。
ため息が止まらない。
仮にも天下の女子高生が、である。公園にいる中年サラリーマンと肩を並べるほどの二酸化炭素製造機と化していた。全ての諸悪の根源は目の前のスマホにある。
ほうら、見てごらん、この滑らかなシリコンケース。傷一つない、薄型、最新鋭のテクノロジー機器。
羨ましいよね、カッコイイよね、新品の、洒落乙なスマホ、欲しいよね。
私だって欲しい。
息を吐く。両膝に乗せた手に力を込める。今の気持ちを正直に吐露していいなら、ズバリこうだ。
「誰のですか、これ……!」
自分のはしっかり制服のポケットに収まっている。2年契約は終わっていないが既に画面にヒビが入っている古い型。
では目の前に鎮座するのは誰の物かと聞かれたら、それは私にも分からない。持ち主不明だ。だからずっと困っていた。