第9章 23:19 "国見英"は遠くの空を見る。【全年齢】
「久しぶり。どうしたの?」
『特になにもないんだけど、、、だめ?』
「だめじゃないけど。」
だめじゃない、どころかむしろ嬉しい。そんな事はわざわざ口に出したりしないけれど、久しぶりに聞いた彼女の声は卒業式の時のままで、俺は少し安心した。
「ねぇ、なんか雑音聴こえる。」
『あ、ごめん聞きづらい?こっち今雨が凄くて。』
「へぇー。こっちは全然だよ。むしろ梅雨とは思えないほど晴れてる。」
『そうなの?同じ日本なのに。』
「まぁ結構距離あるしね。」
言葉で発して初めて二人の間に隔たるどうしようもない距離を自覚する。天気予報が違う所なんて、旅行でしか行った事がなかった。
彼女の声の向こう側でザァザァと雨が降りしきる音が聞こえる。
「、、、夏休みにはそっち行くから。」
『珍しいね、英がそんな事言ってくれるなんて。』
「別に。が寂しがると思って。」
窓から顔を出して、遠くの方を見ても、雨雲なんて見えないし、今見えている月は、雨が降る彼女がいる場所ではきっと見えないのだろう。
本当は俺が会いたいだけ。
この気持ちが一方的じゃないといいのに、、、なんて柄にもなく胸がギュッと苦しくなった。
『ありがとうね!、、何度も電話しようと思ったんだけど、英は大学生活謳歌してるのかなって思うとなんか電話出来なかった。』
「高校の時と変わらないよ。金田一と一緒だし、バレーやってるのも変わらないし。はどうなの?」
『私は、、、うーん。微妙かな?自分で選んでこっち来たのに、たまに仙台に帰りたいなーって思っちゃう。』
「もう6月なのに5月病?」
電話の向こうではははって笑っている彼女は、やっぱりちょっと寂しそうだった。