第9章 23:19 "国見英"は遠くの空を見る。【全年齢】
『でも、英が遊びに来てくれるから、頑張るよ!色々な所案内するから!中華街とか、ラーメン博物館とか、湘南の方とか。色々観光地あるからいっぱい楽しめると思う。』
「はもうみんな行ったの?」
『えーっと、、、行ってない!』
「じゃあ、案内じゃないじゃん。」
『でも英よりは知ってると思うよー?』
「どうだか。
、、、、、まぁお互い初めての方がいいけど。」
最後に尻すぼみにそんな言葉を呟く。だって、俺の知らない場所を彼女が知らないところでどんどん覚えていくなんて、なんか面白くない。
彼女の新しい環境に嫉妬するだなんて、本当に馬鹿げてるのに、知らないところに行ってしまいそうで不安になる気持ちがどうしても拭いきれなかった。
『何?よく聞こえなかった?』
「、、、何でもないよ。」
『ねぇ、英。、、、キスしたいなぁ。』
「は?、、何、突然。」
『突然じゃないよ。ずっと、思ってる。』
「、、、、うん。、、、、まぁ、俺も。」
そういえば、が行く前に最後に会った時には、キスしなかったっけ。唇の形とか、柔らかさとか正直全然覚えてない。
今度は、もっとちゃんと覚えておこう。
窓の外に手を伸ばしても雨粒なんて掌にはくっつかなくて、手は外気で熱を少しづつ奪われ冷たくなるだけで、俺はおもむろに空中を掴んで放した。
街灯がぼんやりと光ってたまにパチパチと接触不良で点滅して、道端に咲いた紫陽花を闇夜にぼんやりと照らしていた。
電話越しに伝わる雨の音。
こんなにも雨が降ればいいのにと思うのは、
離れていても君と同じ景色で繋がっていたいと思うから。
end.