第5章 16:48 ”菅原考支”は魅せられる。【全年齢】
『どういう意味?』
「そのピアノの曲、なんか雨に似合うなと思って!!」
自分が発した問いかけがあまりに意味不明な内容だということに気がついて、必死で補足すると、先生はふふふっと笑った。
『菅原くん凄いね!これ、ラヴェルの水の戯れって曲。私も雨に似合うと思う。』
「確かに、こーなんてゆうか、水の流れみたいな!なんかそんな感じがします!!まぁ俺、音楽全然知らないんですけど。先生、凄いですね!」
『凄くないよ。作ったラヴェルが凄いんだと思う。』
「ラヴェルって有名ですか?」
『うん、これなら菅原くんも知ってるかも。』
そう言って彼女は即興でピアノを弾く。
「あ!それ知ってます!ボレロ?」
『そう。これもラヴェルの曲。』
「へぇー!すぐに弾けるの凄いですね。先生って、校歌とか、音楽の授業でやるような曲弾いてるイメージしかなくて。あ、でも確か文化祭ではなんか黒い縦笛みたいなの吹いてましたよね?」
『あ、クラリネットの事?うん。ピアノはね、小学生の頃からやってるんだ。文化祭の時の見てたんだ。よくわかったね。』
「そりゃあ、いつも見てるんで。」
『え?』
あ!ヤバい、コレって告白みたいになってる!
確かに俺は彼女を見ていた。
部員数が多い吹奏楽部にサプライズで混ざって演奏している中で、はじから順番に見て彼女を探すのは一苦労だった。
壮大な曲のどの音を彼女が奏でているんだろうと、耳をすましたのを覚えている。
彼女の深海みたいな静かで穏やかな目が不思議そうに俺を見つめ、黒くてツルッとした黒鍵を人差し指で撫でる仕草に、息を飲む。
「いや、、あの、だから、、、
、、、、、好きってこと、です。」