第4章 10:00 ”及川徹”は雨をも制す。【全年齢】
B:side
鼻を通り抜ける海の臭い。
耳にこびりつく雨の音。
「ちゃん!大きくなったら僕たち結婚しよーねっ!!」
そんな幼い日の約束をふと思い出したのは、きっと此処が、昔に一度来た事がある場所だから。
あの時約束したあの子は今どうしてるんだろう。今では名前も顔も鮮明に思い出せない。だけど、幼い頃の私達はいつも一緒で、彼は泣き虫でいつも私は彼の手を引いていたような記憶がある。
「ちゃん?ほら、行くよ?」
『うん。』
そう、丁度こんな風に。
私は自分の傘を畳んだままにして、彼が誘う傘の中に入り、傘を持つ彼の腕につかまった。
徹くんは不思議な人だ。
彼は端正なルックスと愛嬌を持ち合わせているばかりか、男子バレー部主将という正に誰もが彼氏にしたい王子様的な存在だ。
彼が行先には校内外関わらず、熱い視線が注がれ、黄色い声援が飛ぶ。
そんな彼を想っている女の子は少なくないはずなのに、よりにもよって彼に興味を持ってない私を選ぶなんておかしな人だと思ったのが第一印象だった。
しかも告白の時には親友の岩泉くんに私を呼び出させる始末。緊張してるのか身体が硬直してるし、俯いてこっちを見もしないで告白だなんて、まるで持っていた印象と違って、私はあっけに取られたのを覚えてる。
水族館に併設されているカフェでランチをして、おなかを満たしてから午後になって水族館を回った。
全面がガラス張りになった空間をエスカレーターで登っていくと、天井まである大きな水槽が一面に広がっていて、色とりどりな魚たちが気持ちよさそうに泳いでいた。
徹くんと手を繋いだ私が水槽のガラスに映る。
そう、ずっと前。
まだ小っちゃかった頃。
こんな風に手を繋いで、私は大好きだったあの子と約束をした。
「ちゃん、大好きだよ。」
『、、、、、え?』
「大きくなったら俺たち、結婚しようね?」
あれ、、、、
おかしい。
なんで?、、、、徹くん?