第1章 出会い
帽子を深く被っていて見えなかった顔は、とても整っていた。そして「捕まえた」と言って、子供のような笑顔を見せる
「離しなさいよ」
私は男性をおして離れようとするが、相手はやはり男性。力の差で勝てるはずもない
「ごめんな、今の君のことを離すことは出来ないよ」
「どうしてよ」
「だって今にも泣きそうじゃないか。本当は嫌なんじゃないの?飛び降りるのも、人生を終わりにするのも」
「そんなことあるわけないじゃない。泣きそうなのはあなたに捕まえられて、こんなつまらない人生を終わりにできなかったからじゃないかしら」
男性は笑った。そしてこう言った
「君は面白い。俺が何を言っても、君はぶれないね」
「褒めて頂き、光栄ですわ」
「でも、強がる必要は無いよ。強がるということは、自分を偽るということ。自分を偽っちゃダメだよ」
「あなたに私の何が分かるのよ!」
「何も教えてくれないのに、分かるわけないだろ。そんなこと言うなら教えてくれよ、君のことを」
「どうしてあなたなんかに…」
「君が教えないのなら、俺も分からない。現に今、君の名前も知らないしね」
「……私の負けね。でも私、自己紹介はしないわよ。あなたとはもう会うことはないだろうから」
「そうだね。じゃあ、ここで会ったのは2人だけの秘密だね」
「あなたと会ったことは秘密というほど、大切なものかしら」
男性はまた笑った
「やっぱり、君は面白い」
そして私のことを離した
「早くここから出な」
「私はあなたの後に出るわ」
そうじゃないとここに来た意味が、無くなるから
「俺が先に戻ると君は飛び降りるでしょ」
当たっているから私は、返事ができない
「正直者だね。でも飛び降りられたら、俺がここに来た意味が無くなるから」
「分かったわよ、もう飛び降りようとはしないわ。あなたに約束してあげる」
男性は私の頭を撫で、こう言った
「うん、それでいい。じゃあ、先に出な」
「そうね。……一応、あなたには感謝しておくわ」
そう言って私は屋上を出た
この出会いが私のつまらない人生を変えるなんて、この時は思ってもいなかった