第11章 -恋心-(及川徹)[後編]
「澤村、お疲れー。」
「おう。って、いいのか?」
「んー?何が?」
背中に及川の視線を感じるけど、
気にしない。
コレで少し静かにしてくれるなら、
そのほうがいいもん。
「いや…。」
「コレ、明日、結に渡してくれる?」
昨日準備して
朝焼いたクッキーを渡した。
「コレ、なんだ?」
「クッキーだよ。
こないだ結に頼まれたの。
色々お礼も兼ねてね。」
結にもちゃんと報告しなきゃなぁ。
「クッキー⁈」
及川が反応しているけど、
やっぱりまだもう少し及川は無視。
「マジかぁ。檜原のクッキー、
美味かったよなぁ。」
「澤村のもあるよー♪
ちょっと多めに作ったから、
よかったら、皆さんでどうぞ。」
「「あざーっす‼︎」」
「檜原、サンキューな。
で、いい加減…いいのか?」
さすがの澤村の笑顔も固まっていた。
本当は及川の分も作ってある。
前に作った時に
及川がすごい褒めてくれたから。
そろそろ無視はやめようかな。
「あのね…及川の分も…⁉︎」
クルリと及川を振り返ると、
またしても及川に抱き締められた。
「及川⁈ちょっ…」
「すみれちゃん、ひどいよっ!
さっきからオレのコト無視だし、
主将くんと仲良さげだし、
それになんでクッキーまで⁈」
「ゴメンてば…。
だって、さっきから及川が…」
「主将くん‼︎」
及川はわたしの肩越しに
今度は澤村を指差した。
「及川⁈あの…別に澤村は…」
「すみれちゃんは…」
わたしの声は
及川の耳に届いていなかった。
「すみれちゃんはオレのだから!」
……チュ。
「「「「………っ⁈」」」」
「及川ぁぁぁぁぁっ⁈」
「なぁに?すみれちゃん♡」
固まるわたしと烏野の皆さんをよそに
1人涼しい顔をして、
ニコニコしている及川…。
「やっぱり及川には
クッキーあげないっ‼︎」
「えっ⁈えぇっ⁈なんで⁈」
「人前で色々しすぎ‼︎」
「えー⁉︎でも、嬉しいくせにー♡」
「嬉しくないっ‼︎」
わたしは恥ずかしすぎて、
澤村たちの呆れた視線に
気付いてなかった。
「…帰るか。」
「「「…ウス。」」」
---End---