第45章 -運命-(及川徹)[後編]

「ちょっ⁈及川さん⁈」


わたしが離れようとすると、
及川さんはさらにギュッとわたしを抱き寄せ、
耳元で囁いてきた。


「さっきの子ども扱いの仕返しだよ？」


「…っ⁈はなしてくださいっ！」


「こら‼︎徹くん‼︎春人もいるんだから、
昼間っからガッつくな‼︎」


ひろみさんが及川さんを引き剥がしてくれて、
わたしはやっと及川さんから解放された。


「エ…エプロンは、
さっき材料切る時に借りただけで、
ほんとに付き合ってないですっ‼︎」


わたしはもう一度否定してから、
慌ててエプロンを外した。


「「……。」」


岩泉さんとひろみさんの視線がなんだか痛い。


「な…なんですか？お二人とも…」


「クソ川の面倒見てくれる人ができて、
コイツから解放されると思ったのになぁ。」


「ちょっと⁈岩ちゃん⁈」


「すみれちゃん、徹くん、こんなだけど、
根っから変な悪い人じゃないのよ？」


「ひろちゃんまで⁈」


「いえ…あの…」


なんか急に二人して、
及川さんをオススメしにかかってるような…


「あ！春人くん、もう食べちゃったよね⁈
次、焼きましょう⁈わたし、焼きますね。」


これ以上、そんな話はしたくなくて、
また及川さんのことばかり考えてしまいそうで、
わたしはわざとらしく話をそらした。


それからは、わたしと及川さんの話にはならず、
岩泉さんとひろみさんの馴れ初めを聞いたり、
(キューピッドは及川さんらしい…)
春人くんが幼稚園で習った歌を歌ってくれたり、
あっという間にタコはなくなり、
それと同時にたこ焼きも終了した。


ひろみさんが作ってきてくれた
ポテトサラダとだし巻き卵もあったから、
皆お腹いっぱいで大満足だった。


「美味しかったぁ。
でも、なんか甘いもの食べたいね〜。」


「あ、それなら檜原さんが持ってきてくれた
アイスクリームとお菓子があるよ。」


ひろみさんのことばに皆頷くと、
及川さんは立ち上がった。


「わたしも手伝います。」


二人でキッチンへ行くと、
及川さんはまたわたしの耳元で囁く。


「ありがとう。
ね？エプロンなんで外しちゃったの？
似合ってたのに。」


「…っ⁈」


「べ…別に！
もう食べ終わったし、いいでしょ！」


わたし…こんなに耳元弱かったっけ…